私の職業(その7)

 家に帰り着いたのは、夜の8時を少し過ぎていた。夏の暑さで体にだるさは残っていたけど、心の中は新たな進展で満たされていた。まさとくんの滑らかですべすべした肌を思い出した。筋肉を覆っている薄い皮膚に私は一晩中包み込まれていた。ホテルにあるコンドームを全て駄目にして、困惑したまさとくんの表情にいとおしさを感じて守ってあげたい気持ちが芽生えた。まさとくんと私は上手くやって行ける。そういう確信を得られた旅行だった。私は余韻に浸りながら、診療所にある父の机の前の診察台に腰かけ、月明かりに照らされて動く自分の脚の影を目で追いかけた。

 後ろから小さな物音がして、振り返ると神坂さんだった。こんな時間なのに、いつもの白衣を着ていた。部屋が暗くてよくわからなかったが、神坂さんは笑っていて、何か小さくて四角いもので、団扇みたいに扇いでいるように見えた。
「帰ってたんだ。」
神坂さんの声は乾いていて、いつもの落ち着いた声よりも、うわずってるように聞こえた。
「うん、さっき。」
私は神坂さんの白衣を見て、いつもの自分の行為を思い出し、顔が少し赤くなった。
「お父さん、今夜は飲みに行って遅くなるんだって。」
神坂さんはそう言って近づいてきた。
「外泊するなら、連絡しろって行ってたぜ。」
「ちゃんと、電話しといたよ。お父さん、人の話をちゃんと聞いて無いんだから。」
私は憮然としながら答えた。
神坂さんが月明かりの中に入り、さっきから手に持っている物が見えた。私が買って財布の中に入れて置いたコンドームだった。神坂さんの顔は笑っていたけど、目は笑っていなかった。
[PR]

by haru_ki_0207 | 2004-08-09 22:53 | ショートストーリー  

<< 水田 波 >>