私の職業3

 私の父は開業医だった。開業医と言っても、街の中の大きな病院ではなくて、無人島に近い小さな島の診療所だった。父はその小さな島に生まれ、大学を卒業して大学病院に残った後、祖父が亡くなると30歳の若さで島に帰って来た。
 私は母の顔を知らない。物心ついた頃から父と二人暮らしだった。お墓があるから母はこの土地で死んだのだろうと思う。ただ、母の身内はこの島には誰も居なかった。私の中でさえちょっとした謎の人物。一枚だけ写真が残っていて、それを私は大事に持っている。どちらかというと、何の特徴も無い、幸薄そうな顔だ。笑い顔だが頼りない。今にも壊れてしまいそうな微笑み。そして、私にはあまり似てなく、この写真を見た誰もが口を濁した。

 神坂さんは、私が高校1年生のころに、この島にやってきた。表向きは志を持って、つまり過疎の村に自ら志望する青年医師として海を渡って診療所に住み込みで働いていたが、実は女性問題と借金で都会に見切りを付けて、この村に逃げ込んできた。3年後、私が大学1年生のころ、やくざが追って来て全てが発覚した。ただ、それまでは、親切で感じの良い、ちょっとハンサムでちょっとナイーブな、ミステリアスな青年として、島の女達からは好感を得ていた。そして、私もその一人だった。思春期の女の子の常として、年上の男性は魅力的にうつった。私は同級生の男の子と交換日記とキスとペッティングをしながらも、神坂さんの脱ぎ捨ててある白衣に顔をうずめて、オナニーをするのが常だった。消毒液の中から男の匂いを嗅ぎ出す快感。それは、同級生の乱暴な愛撫とは比べ物にならないくらい、危ない遊戯だった。
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by haru_ki_0207 | 2004-07-13 01:14 | ショートストーリー  

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