私の職業(その1)

 この仕事を初めて、夏の暑い日でも手袋が欠かせなくなった。日焼け防止だけが、目的ではない。いつも、しっとりとした潤いのある手を保つために、必要なのである。今日も予約が入って準備に取り掛かる。爪は短めに仕上げる。ネイルカラーにはいつも気を使う。今日は50歳の会社社長。彼の好みは白。こう言うことはさりげなくフォローしている。きっと満足してくれるはずだ。昨日、手の甲に付けられた傷がわずかに赤くなっているのをファンデーションで隠す。完璧。保湿用の手袋をはめて、病院に向かう。

 ここには、私専用の待合室がある。院長が特別に用意してくれたものだ。白衣に着替えて、呼ばれるのを待つ。いつものことだけど、完全予約制なので、長い間待つことはまれである。さっきから、かん高い金属音が聞こえている。歯科医院独特の雰囲気がある。私を呼びに衛生士が来る。バイセクシャルな私は彼女の目がまともに見れない。

 社長はだらしない顔をして、仰向けで口を空けている。私は用意されてる椅子に腰を降ろす。ゴツゴツした厚ぼったい手が私の前に差し出され、今日準備した最高の笑顔で手を握りながら、微笑む。
「大丈夫ですよ。社長。私がついてますから。」
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by haru_ki_0207 | 2004-07-07 21:22 | ショートストーリー  

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