ハクモクレン再び(3/12)


それから、僕は病院を退院して父の住むアメリカへ渡ったんだ。
西海岸の地震の多い街だった。
高校を卒業するまでそこに住んだ。良い所だったよ。
夏は熱いけどカラっとしていてね。サーフィンやボディーボードを覚えた。
友達もたくさん出来たよ。
誰も僕の脚のことを話題にする奴なんて居なかったからね。

女の子はみんな奇麗だった。
僕は今までベッドの中で過ごした時間を取り戻すために、夢中で遊んだよ。
思春期。人生が輝く瞬間だった。本当に楽しかった。
段々と僕は日本での生活を忘れはじめた。君の事さえも。

進学の時期になって僕は五郎ちゃんの事をぼんやり思い出した。
とても薄情だけど、事実そうだったんだ。
そういえば医者になりたいと思っていたことも思い出した。
全然忘れてた。女の子のことしか頭になかったからね。
でも、ちょうど良かったんだ。
僕のことを好きだって言ってくれた女の子は僕の持っているクレジットカードが大好きだったのさ。
サインさえすれば、すぐに何でも買えるカード。
どうやら僕の家は金持ちだったらしい。

僕は色んなものをリセットしたくて、東海岸の大学に進学した。
そこで初めての一人暮らしをした。猛勉強して医者になったよ。
そしてアフリカに渡った。五郎ちゃんが言っていた通り、世界中の子供たちが僕を待っていたよ。
仕事は充実していた。やりがいもあったし感謝もされた。生きているという実感があった。
何より自分一人の力で生きているという事が嬉しかった。

同僚のフランス人医師と結婚をした。綺麗な人だった。彫刻みたいにスタイルも良かった。
この場所に求められていると思った。何も不足しているものがなかった。

でも、同時に何かが足りなかった。何かが不足していた。ただ、それが何なのかわからなかった。
僕は段々と疲れていった。
かつての充実感が無くなった。何をやっても上手く行かなくなった。
家庭では会話も無くなった。
夜、眠れなくなった。
三十歳を前にして、何かに対して焦っていた。
ただ、それが何かがわからなかった。

僕は旅行に出かけた。一ヶ月ほどの一人旅だった。
妻と距離を置くためでもあった。
フランスの田園地帯をのんびり廻った。
久しぶりに僕は解放された。

予定していた休みがあと一週間という頃になって、急に砂漠が見たくなった。
何故だかはわからない。牧歌的なところに居すぎたせいかもしれない。
ただ、大きな力に引き寄せられた。
やり過ごす事が出来なかった。行かない訳にはいかなかった。
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by haru_ki_0207 | 2007-05-07 22:37 | ハクモクレンの花  

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