ハクモクレンの花(5/12)


それからというもの、健太郎君は気分が良くなるとハクモクレンの木に会いに行きました。
そして色々な話をしました。
不思議な事に、ハクモクレンの木と話すとますます気分が良くなりました。
ハクモクレンもまた、健太郎君から毎回お水をもらって元気を取り戻しました。
ハクモクレンは色々な事を知っていました。
この病院が完成した日に植えられて、同じだけ歳を取ったのです。
この病院の事で知らないことは何もありませんでした。
ずっとここに立って色んなものを見てきたのです。

ある寒い日の日曜日。
いつものように健太郎君が中庭に居ると、ハクモクレンは少し寂しそうにしながら
「僕には、兄弟が居たんだ」
とつぶやきました。

健太郎君は続きを待ちました。
二人には時間がたくさんあって、急いで話す必要はありませんでした。
ハクモクレンは何かを思い出しているみたいに、空を仰ぎ、遠くを見つめました。
そして大きなため息をつき、話し始めました。

「この病院が建った時に僕らは植えられたんだ。
僕は五人兄弟の末っ子だった。一郎兄さんが一番初めに植えられた。
その次が二郎兄さん。三郎兄さんがその次で、四郎兄さんの次が僕で、やっぱり五郎と名付けられた」
健太郎君はくすっと笑いました。
「五郎。素敵な名前だよ。ハクモクレンの五郎」
ハクモクレンは恥ずかしそうにしながら、続きを話しました。
「その頃はまだ、この中庭は無かったんだ。病院の南側には何も無い広い庭だった。
僕らは毎日太陽をさんさんと浴びて元気良く、すくすくと育ったんだ。
みんなに愛されてね」

「みんな五郎ちゃんの事を知っていたんだね」
ハクモクレンは大きくうなずきました。そして久しぶりに名前で呼ばれて嬉しくなりました。

「そう。僕らのことはみんな知っていた。まだ小さかったから、
毎日誰かが来て水をくれたよ。草が生えたら子供達が取ってくれた。
重い病気の子供もいなかった。この街にはまだ、人が少なかったからね。
でも、だんだんと人が増えたんだ。
便利な場所だったから、新幹線も開通したし、大きな港も出来た。
人が集まれば、大きな駅が必要になって、駅が大きくなればまた人が集まる。
そうやって、雪だるま式に増えたんだ。
そして、病気になる子供も増えた。病院は手狭になって、庭を潰して新しい病室を増築した。
増築を続けて、余ったのがこの中庭なんだ」
健太郎君は、今座っている場所を見回しました。

「ここは昔、庭だったんだ」
「そう、そこには芝生の張った立派な庭だった」
ハクモクレンの五郎は健太郎君の座っている場所を見ながら言いました。
[PR]

by haru_ki_0207 | 2007-03-27 23:06 | ハクモクレンの花  

<< ハクモクレンの花(6/12) ハクモクレンの花(4/12) >>