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彼女の行方(その32)

僕らは携帯電話を持ったまま、お互いの方へ歩いて行きました。
サキの足取りは軽やかで、スカートの裾からのぞく足は白く、
素足で履いたサンダルから爪がキラキラ輝いて見えました。
僕らはさらに近づき、サキのシャンプーの匂いが香る距離まで近づきました。
「どうして探したりしたの?」
サキの生の声でした。電波を通さない声が、こんなに心地良いものだと改めて思いました。
「探さずにはいれなかったんだ」
「どうして?私がどんな女だったかってこと、わかったんでしょ?」
「愛してるんだ」
「愛?愛って何?まさか決して後悔しないことなんて言うんじゃないでしょうね」
「エリックシーガル。ラブストーリー」
「正解。歳がばれるわよ」
「君こそ、若いのに良く知ってる。僕らの年代でも知ってる人は少ないのに」
「アメリカの古典文学が好きなのよ」
「それは知らなかった。君のことで知らないことが、まだたくさんある」
「私の事、知りたいの?」
「知りたい。もっと知りたい。どんな事でも。恋は終わるけど、愛は終わらないんだ。
どんなことが出てきても平気なんだ。すでに君は僕の一部のような気がする」
「たった一晩寝ただけで?」
「そう。たった一晩寝ただけで。質の問題なんだ」
「愛は、終わらないのね」
「ああ、終わらない。決して」

僕らは抱き合いました。人目もはばからず。
バスが一台通り過ぎました。クラクションの音が汽笛に聞こえました。

by haru_ki_0207 | 2006-10-17 01:24 | ショートストーリー  

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