彼女の行方(その31)

サキは隣町に住んでいました。僕はバスを乗り継ぎながら、車を売ってしまったことを後悔しました。
事務所を引き払った時、二束三文にしかならなかった僕の車。維持費さえ払えなかった生活。
少しはマシになった、と思いました。

サキのアパートはすぐに見つかりました。まだあまり開発されていない小さな町の小さなアパート。
だけど、何度呼び鈴を押しても誰も出てきませんでした。
見上げると電力計がありました。メーターの回転速度は、住人の不在を表していました。
僕は階段にしばらく腰を下ろしてサキの帰りを待ちました。一時間待ったところで、
もしかしたら、ここで待つことがサキにとって不利益になるかもしれないと思いました。
サキには新しい男が居て新しい生活が始まっているかもしれません。
僕は腰を上げ、バス停に向かいました。長い一本道。遠くにバス停が霞んで見えました。
でも、アヤは住所を教えてくれた。
たぶん、僕の事をサキに話し、サキがアヤに住所を伝えたのでしょう。
僕は携帯電話を取り出し、もう一度電話をしてみました。
今度はすぐに相手が出ました。懐かしいサキの声でした。

「もしもし、今バスに乗っているの。もうすぐ降りるところ」
「また、かけ直すよ。一時間後くらいに」
「そんなに待てないわ」
「え?」
「いま、そばにいるから」
遠くに霞んで見えたバス停の前にバスが停まり、女が一人、降りてきました。
サキでした。彼女は眩しそうに空を見上げ、僕のほうに真っ直ぐ視線を送り
小さく手を振りました。
「おひさしぶり」
電波に乗ってサキの声がやってきました。
「会いたかった。ずっと探してた」
僕の声も電波に乗って飛んで行きました。
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by haru_ki_0207 | 2006-10-12 00:13 | ショートストーリー  

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