彼女の行方(その29)

アヤは一週間、僕のアパートに泊まりました。
身の回りの物は全て封筒の中に入っていた富岡のお金から支払われました。
「手切れ金なんだって。馬鹿な男だよね。私からエイズを染されて、お金まで払って。
あいつは自分が染したと思ってるみたいだけど、たぶん、私が染したんだと思う」
「どうしてそう思うの。何か根拠はあるの?」
「根拠?難しい言葉を使うのね。たかが病気くらいに。
根拠はないわ。ただの勘。それにサキさんはセーフだったし。私達ってね、そのへんはちゃんとケアしてるの。
定期的に検査してるの。自分を守るためにね。
まあ、今回は私だけ大きなババを引いちゃったけど」

「サキとはいつから知り合いなの」
「二年位前かな。私の先輩。よく一緒に遊んだわ。住んでるところが同じだったから。
富岡はね、最初、サキさんのお客だったの。でも、時々一緒に遊んだりしたのよ。
三人でプレーするの。したことない?意外と難しいのよ。女の子二人の役割分担とかあるし」
アヤは楽しそうに笑いました。

「あなた、サキさんの事、好きなのね。こんな話し、辛くない?」
「少し」僕の声はかすれていました。
「ごめんなさい。でも、これが現実なの。最初はみんなね、愛だとか、恋だとか言ってくれるの。
救いたい、とかね。最初はね、私も真に受けたわ。この人なら私を救ってくれるかもしれないって。
でも駄目ね、たいていの男は駄目なのよ。浅はかなのね。すぐにこう言うの。俺は何番目なのか?って。
あなたが一番よって言うと信じないの。一番感じたセックスは誰とやった?とかね。
そんなのいちいち覚えてないわよ。一日に何人もとやるのよ。それが、一年以上も続いてる訳じゃない。
すごく気持ちよくって、すぐにいってしまったことが何度かあったわ。
でも、それだけよ。覚えてなんかいない。俺のペニスは何番目に大きかったって聞くの。しつこく。毎晩、念仏みたいに。
私、いい加減腹が立って、言ってやったわ。最低とまでは言わないけど、小さい方から数えた方が早いって。
そしたら彼、私を愛してるって言った彼は、出て行ったの。さよならも言わずに、ドアを閉める音さえたてずに、そっと。
怒ればいいって思って言ったのに。私を気が済むまで殴って、そのあとそっとキスして許してくれたら私は救われたのに。
彼は責める事さえせずに私を汚いものでも見るみたいに、哀れんで出て行ったのよ。これが私達の現実なの」

アヤの目に涙はありませんでした。きっと彼女はこの事で何度も傷つき、涙が枯れてしまったのでしょう。
代りに僕が泣いていました。静かな部屋の畳みの上にボタボタと音がして、
後から後から落ち続けました。僕らはその音をしばらく二人で聞いていました。
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by haru_ki_0207 | 2006-10-07 23:32 | ショートストーリー  

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