彼女の行方(その16)
彼女が再び、僕の前から姿を消して一ヶ月が過ぎました。
僕は都心から離れた、老朽化した木造の賃貸アパートに引っ越しました。
何処かの設計事務所に就職しようかとも考えましたが、誰かの指示で動くことに
抵抗があって、選択肢から外してしまいました。
その代わり、どんな仕事でも引き受けました。
図面のトレース、訂正、現場の調査。誰もが嫌がる、けど誰かがやらなければいけない、
そういう仕事が、どこの世界にもあるのです。僕はそれらの仕事を
進んで引き受け、短時間で仕上げました。単純な作業だけに、心をいつもサキに奪われました。
僕は、彼女と過ごした時間の事を想いました。彼女と毎週水曜日に打ち合わせをしました。
僕らの間には、出来上がったばかりの図面があって、二人で向かい合って、
サキの要望を赤鉛筆を使って図面に書き入れました。
僕らは時間の許す限り、意見を交換しました。時には真夜中になることもありました。
訂正で真っ赤になった図面を事務所に持ち帰り、法規とディテールをチェックし、CADで図面化しました。
翌週の火曜日までその作業は続けられました。そして、水曜日にサキの待つケアハウスに持参しました。
「流石だわ」と言ってサキは僕を労いました。
「流石、建築家。私と建物を熟知している」
僕は彼女の、多少過大評価された言葉を支えに、あの頃生きていたのかもしれません。
「現実」と思いました。
彼女が富岡の愛人というのなら、現実に、そうなのでしょう。
僕が、基本プランを最初に富岡の事務所に持って行った日の、サキの疲れた顔を思い出しました。
彼女はあの日も、富岡に抱かれていたのかもしれません。
現実。哀しい言葉。
僕は都心から離れた、老朽化した木造の賃貸アパートに引っ越しました。
何処かの設計事務所に就職しようかとも考えましたが、誰かの指示で動くことに
抵抗があって、選択肢から外してしまいました。
その代わり、どんな仕事でも引き受けました。
図面のトレース、訂正、現場の調査。誰もが嫌がる、けど誰かがやらなければいけない、
そういう仕事が、どこの世界にもあるのです。僕はそれらの仕事を
進んで引き受け、短時間で仕上げました。単純な作業だけに、心をいつもサキに奪われました。
僕は、彼女と過ごした時間の事を想いました。彼女と毎週水曜日に打ち合わせをしました。
僕らの間には、出来上がったばかりの図面があって、二人で向かい合って、
サキの要望を赤鉛筆を使って図面に書き入れました。
僕らは時間の許す限り、意見を交換しました。時には真夜中になることもありました。
訂正で真っ赤になった図面を事務所に持ち帰り、法規とディテールをチェックし、CADで図面化しました。
翌週の火曜日までその作業は続けられました。そして、水曜日にサキの待つケアハウスに持参しました。
「流石だわ」と言ってサキは僕を労いました。
「流石、建築家。私と建物を熟知している」
僕は彼女の、多少過大評価された言葉を支えに、あの頃生きていたのかもしれません。
「現実」と思いました。
彼女が富岡の愛人というのなら、現実に、そうなのでしょう。
僕が、基本プランを最初に富岡の事務所に持って行った日の、サキの疲れた顔を思い出しました。
彼女はあの日も、富岡に抱かれていたのかもしれません。
現実。哀しい言葉。
by haru_ki_0207 | 2006-08-18 00:28 | ショートストーリー