私の職業(その20)

 夏休みが終る頃、まさとくんから電話があった。声を聞いた時、すぐには誰だかわからなかった。現実に引き戻された気もしたし、遠い国からのメッセージにも聞こえた。いずれにしても、二人は既に違う世界にいた。ちょっと前までは、同じ部屋に居たのに。
「神坂と出来てるのか?礼子が言ってたぜ!あの日、会う約束なんかしてないって。部活は休んで、家にずっと居たって。」
まさとくんが、何年も前の話をしているような気がした。最後に学校で逢った時の話をしているんだ。あれから私にどんな出来事があったのか、どんな試練があったのか、まさとくんは知らない。あの女が言ったように、知らない方が良いことの方がたくさんある。それまでは、幸せで居られるのだ。
「まさとくん。あなたには感謝してる。今はもう、色んな物が変わったのよ。私の周りの環境もわたし自身も。いつのまにか、暴力的に」
「神坂とやったのか?無理やり犯されたのか?」
「まさとくん。そんな事しか言えないの?暴力的にというのは、たとえよ。私達はいつかは大人になるのよ。いつか、まさとくんにも判る日がくるわ」
その後、まさとくんは有りったけの言葉で私をののしったけど、最後には謝って、いつまでも待ってると言って泣き出して私をうんざりさせたけど、そんな日が来るかもしれないし、来ないかもしれない。でも、気持ちは嬉しいわ。ありがとう。と言って、電話を切った。でも、もう戻れないし、戻るつもりも無いことはわかったいた。それはあの頃、私の中で唯一はっきりとわかっている事だったかもしれない。あの不確かな世代の中で。

 
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by haru_ki_0207 | 2004-10-14 22:53 | ショートストーリー  

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